「江差の五月は江戸にもない」...というフレーズをここで毎年書き続けてきた。日本海がおだやかになるこの時期、かって北を目指した多くの北前船が競うように入港したのだろうし、またニシンの群来が押し寄せたのもこの時期だ。日本海が日本列島の経済流通の大動脈だったころ、その北のターミナル江差では未曾有の繁栄が長く続いたのである。そうした事実の先に江差塗り工房が活動してるわけで、その作品展にはこのフレーズが欠かせない。

函館から車で二時間弱、通勤するにはムリという程の位置に江差町はある。店主も姥神まつりを中心に年に幾度か訪ねるのだが、行くたびに心に豊かなモノがジ〜ンワリ沸き立つ。行きにはいつもなにか期待が、そして帰途にはなにやら未練や心残りといったものが生じるそんな地方の魅力的な小都市なのである。
人々の歓びや悲しみを見続けてきたのが古民家だ。歴史的環境を形作る大事な要素で、歴史であると同時にまちの個性そのものだ。しかしそうした建物もやむを得ぬ事情で解体される事だってある。江差塗り工房の人たちにとって、そうした歴史に磨き込まれた民家の一部だった古材、梁や柱が創作のための有り難い力になる。かっての大工たちが切ったり挽いたり穿ったりし、建物として機能して数百年、時代の空気をたっぷり吸い込んだ古材が現代の工人たちによって椅子やテーブルに姿を変えるのである。
古材は現代に蘇る。別な機能として姿を変えるのだが、その組み立てが済むとすべて漆仕上げ、それも丁寧な拭きうるし加工が施される。漆は日本の伝統のワザだ。その底深い輝きはまさに陰影礼賛、現代人が24時間営業蛍光灯照明ですっかり見失った「美」がそこに姿を現す。
今我が国の素材漆はほとんどが輸入物なのだが、工房では山を手に入れ毎年漆樹を植樹している。すべてを自給しようというわけだ。しかし、昨年の豪雨で漆の森の取り付け道路が決壊、修復に結構な投資をしてしまいましたと明るく笑っていたけれど、ゼネコンなど見向きもしない道路工事には地域のジサマたちが日当を有り難く頂きながら地域保全に汗したはず。
店主はこうして毎年、江差塗り工房の新作たちを身近に見てきた。年ごとに完成度が高まってるのは当然だが、江差という魅力的な都市の過去と現在、そして「好ましい未来を夢見る幸福な仕組み」をみてきたわけでもある。
江差塗り工房新作展"新しくなった古さ"は今月末まで開催
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五月はときおり休みつつ働きます







